（　午前11時半ぐらい　）

駅まで行くのがたるいんでホテルの前で手をあげた。
すぐにタクシーが止まった。
見るとツンツルテン頭の中年…身の毛がよだつ。
仕方ないから道を横断。タクシー、速攻で消える。
反対車線で手をあげる。タクシーがやってきた。
銀髪の生真面目ジジイ。雰囲気的にギャグは無理。
「マンガストリート」
自信をもって言う。運転手、首を傾げる…
ダメじゃん。やる気なくした。帰って寝よ…
フロントに戻ってキーを催促する。するとフロントマンが
「部屋に清掃が入たのでしばらく待ってください」
ベラベラの日本語。顔も覚悟も完璧。
イスに腰掛けて暇つぶしに地図を眺める。
今度は顔も覚悟も言語も中途半端のボーイが話しかける。
「オデカケしますか？」
は？　ナンパのつもりか？　血をみたいか？

（　脳内細胞フル回転で解読　）

おでかけしないのですか？　ね。
「ここに行くつもりだった」地図を指さす。
「ワカりました」
表に出てタクシーを止めてくれた。
よけぃなことを…。昼寝が遠のく
せっかくの好意、お礼を言ってタクシーに乗る。
でも、それは好意ではなく
ロビーから追い出されたかもしれない。
タクシーは道路を快調に飛ばし、ホテルから５分で到着。
周囲はただの台湾。それらしぃ看板もない。

地図をよく見る。ちょっち奧のよぅ。行ってみる。

街並みの狭間に薄暗い街路。ここみたい。
本屋、本屋、本屋。マンガ、マンガ、マンガ。
本当にマンガ街だ。うそではなかった。
一番手前の本屋に入る。かび臭い。やっぱり本屋だ。

棚はマンガだらけ。みんな日本のマンガ。でも中国語。
一冊手に取り中を見る。漢字ばっか。内容はわかる。
二冊目を手に取る。あぁ、昔見たことがある。
三冊目…術中に嵌ったよぅだ。
不意にいやな目線を感じる。見ると左隅のカウンタァに主人。
反射で本を戻す。棚を見ながら間合いをとる。
タイミングをはかり出口へ。
主人「ニホンジン？」カタコトの言葉。
「うん。マンガばっかだね？」平常心を装う。
主人「タチヨミ。ニホンジン」
意外とフレンドリー。これならいける？
いつからやってるの？
主人「オヤワマンガ、好キ」
助詞に問題がある。でも意味はわかる。覚悟を決める。
写真いい？
主人「ダメ」
なにそれ。意味がわかんない。も一度訊くね。写真を…
主人「ダメ」
刃物が欲しい。心で思った。
笑うしかない。隣の店へ。

中を眺める。客しかいない。
だったら無断撮影。　はいちぃ…
店員「ノー！　ピクチャー！」
客だと思ったら店員だった。
慌てて作り笑い。そして逃げる。

向かいの店。店員見てる。話にならない。諦める。
お腹空いた。ここらが限界。最後の一軒。

店員いない。背後は？　いない。
深呼吸、心拍正常、準備完了。
はいちぃ…
店長「カメラはダメです」
どこ？　どこにいるの？
棚に鏡。鏡の中に店長の顔。死角をつかれた。
ここは笑う。笑うしかない。
相手も笑う。笑いは世界共通。気持ちが通じる。
はいちぃ…
店長「ダメです」